ここでは、伊藤の診療で処方することがある咳止めについて説明します。
安全性は高い薬ですので、とくに使用に不安がなければ必ずしも読まなくて大丈夫です。
逆にどんな薬なのか知った方が安心できるようであれば、ぜひお目通しください。
どんなお薬か
- 酒石酸ブトルファノール(商品名 ベトルファール)
というお薬を使用しています。

ブトルファノールはもともと犬や猫の鎮痛薬(痛み止め)として承認されているお薬ですが、現場では鎮静薬(落ち着かせる)や咳止めとしても使われます。
咳止めの効果をもつお薬はブトルファノール以外にもありますが、現在のところ、伊藤はこの薬を選んで処方しています。
ブトルファノールを選んだ理由
この薬を選んだ理由としては
- スポットで使いやすい
- 飲ませやすい
- 安全性が高い
- 比較的よく効く
あたりになります。
スポットで使いやすい
咳止めの中には、普通の心臓病のお薬のように、「一日●回、それを毎日」のように処方されるものがあります。
毎日咳が止まらない子の使用法としてはアリですが、心臓病による咳は多い日があったり少ない日があったりとバラつきが大きく、「咳が多いときだけ、スポット的に使いたい」というシーンがよくあります。
その点、ブトルファノールはスポット的な使い方がしやすく便利です。
飲ませやすい
ブトルファノールは本来、鎮痛・鎮静薬として注射で使用するお薬ですが、咳止めとして使用するときにはシロップや水に溶かした液体として処方します。

口の中に数滴たらして与えていただく形なので飲ませやすく、シロップ好きな子は喜んで自分から飲んでくれることすらあります。
安全性が高い
安全性のところで後述しますが、ブトルファノールは安全性が高いので、安心して使用できます。
比較的よく効く
最終的にはお薬が効くかはケースバイケースになりますが、他の咳止めのお薬に比べてもブトルファノールはよく咳をおさえてくれる印象です。
ブトルファノールが咳を減らす仕組み
簡単にいうと、ブトルファノールは咳中枢(せきちゅうすう)というところに働き、咳を減らします。
前提として、咳は生き物が狙って起こしている身体の反応です。
我々も間違ってゴミを吸い込んでしまったときに咳をしますが、これは身体が身体に入ってきたゴミを咳で排出しようとするからです。(なので、咳はなんでも止めれば良いわけではありません)
その咳をコントロールしているのが、脳の延髄(えんずい)にある咳中枢という場所です。

ブトルファノールはここに働きかけ、咳を起こしにくくします。
安全性について
ブトルファノールは安全性の高いお薬です。
大前提として、すべてのお薬に副作用は存在するので、副作用があるかないかと問われれば「ある」が回答になりますが、恐れなければいけない「程度」の副作用はありません。
実際、大半は特に問題もなくブトルファノールを咳止めとして使用できています。
あえて挙げるなら、たくさん使用した場合、元気や食欲がなくなる(ように見える)ことがあります。
理由は、ブトルファノールは咳止め以外に鎮静薬としての効果もあるからです。
傍目には元気や食欲がなくなるので、「薬で調子が悪くなった」と不安になる方もいますが、当の犬猫本人からすると、痛くも苦しくもなく、鎮静がかかってぼんやりした感じになっているだけの状態です。
咳止めの使い方
用量・用法
伊藤がブトルファノールを咳止めとして処方する場合、毎回、犬の体重1kgあたり、ブトルファノールが0.05mg与えられるように量を計算して薬を作っています。
基本的には、ブトルファノールをシロップやお薬で割ったものを点眼ビンなどに入れてお出ししています。

このビンから、一回あたり、2〜3滴を愛犬・愛猫の口にたらして飲ませてもらう形になります。
咳止めの一日の使用回数
とりあえず、一日に3回までを目安にしてみてください。
実は、上限どれくらいまでならこの薬が安全に使えるのかは、正確なところはわかっていません。
ブトルファノールは検査や処置のときの鎮静薬として使うこともあり、そのときは咳止めとして使うときの4〜8倍の量を使っていますが、特に問題は起こっていません。
しかも、鎮静薬として使うときは、身体に100%取り込まれる注射という形になるので、咳止めとして口から飲ませるときはさらに安全だと考えられます。
さらに実績に基づいた話をすると、ブトルファノールを一日に3回までという使用法でこれまで問題が起こったことはありませんし、咳が多くて一日に10回以上使用したケースでも大丈夫でした。
まとめると、おそらくかなりの量を使っても大丈夫だと思いますが、まずは一日に3回までを目安に始められることをおすすめします。
その上で、もっと使用回数を増やしたい場合は、伊藤にご相談ください。
咳止めの使用期限と保存法
ブトルファノールのシロップがいつまで使えるのかはあまり分かっていません。
一般論として、保存性の面からは、お薬は早く使い切る方が安全です。
ただし、期限が短いほど使い勝手が悪くなるので悩ましいところです。
現実的な対策としては、まず、少しでも長持ちさせるため、冷蔵庫の中など冷暗所での保存をおすすめします。
経験的な話になりますが、冷暗所保存なら、1〜2ヶ月は効果が保たれている印象です。
「半年冷蔵庫に入れておいた薬でも効いた」という飼い主さんもいたので、もっと長持ちするのかもしれませんが、個人的には保存期間は1〜2ヶ月と考えておくことをおすすめします。
シロップについて
基本的に、咳止め用のブトルファノールはシロップで割って処方されます。

「シロップって糖分だから腐りやすくならない?」という声もあるかもしれませんが、病院で使用するシロップの糖分濃度は85%という濃さで、細菌が繁殖しにくくなっています(出典)。
日常的なもので例をあげると、たとえばジャムは糖分の濃度が高いことにより保存性が高くなっています(出典)。
とはいえ、お薬や容器を清潔に保つに越したことはないので、お薬をあげるときには、容器に犬猫の口がついたり、なめられたりしないようにした方が良いとは思います。
以上になります。
ほかにもご質問があれば、お気軽にご連絡ください。