心臓病の犬猫の飼い主さんからよくもらう質問の一つにワクチンのことがあります。
- 心臓が弱っているんだから、ワクチンを打ったら体調が悪化するのでは?
- ワクチンで心臓に負担はかからないのか?
- 何か飼い主にできることはないの?
などの疑問や心配があってのことだと思います。
この記事では、そんな飼い主さんの悩みを解消するべく、心臓病の犬や猫のワクチン接種について解説します。
結論
先に結論から伝えると
- 心臓病の犬や猫でも、ワクチンはそれほど恐れなくていい
- 打つべきかの判断は、健康な犬や猫とほぼ同じ
- 総合判断になるので、獣医さんと相談しよう
になります。
それではここからは、この結論に至る考え方を説明しますが、ワクチンと言っても、狂犬病ワクチンや混合ワクチンなど、犬・猫ともに複数の種類があります。
いろんな種類がある以上、厳密には個別に考えるべきなんですが、難しくなるので今回は犬と猫のワクチン全般に当てはまる話をしていきます。
ワクチンの副反応
ワクチンによって起こる、病気から身を守る力を高めてくれる以外の反応のことを副反応と呼びます。
お薬でいう副作用みたいなものと思ってください。
ワクチンの副反応の種類
ワクチンの副反応としては
- 注射したところの腫れ、赤み、痛み
- 元気がなくなる
- 食欲がなくなる
- 発熱
- 下痢、吐き
- アレルギー反応
- 注射部位のできもの
などが挙げられます。
アナフィラキシーについて
ここで重要な用語である、アナフィラキシーについて説明しておきます。
アナフィラキシーとは、急に全身にアレルギー反応が起こることです。
発生確率は低く、出てくる症状や程度もさまざまですが、ひどい場合には全身の血圧が大きく下がって、倒れたり、命の危険に及ぶことがあります。
「ワクチンを打った後、急に動物の具合が悪くなり倒れた」などの話は、このアナフィラキシーを疑ってもらって良いかと思います。
アナフィラキシーの原因は、ワクチンに限らず、食物やハチの毒など他にもありますが、とりあえずこの記事では
- アナフィラキシー = 重いワクチンの副反応
と考えてください。
ただし、重い副反応といっても、「アナフィラキシー=死」ではないことにも注意してください。
アナフィラキシーの症状や程度はさまざまですし、治療法だって存在します。
副反応の発生率
ワクチンの副反応の発生率は
- 軽いもの 数百頭に1頭
- 重いもの 数千〜数万頭に1頭
という感じです。
いくつか例を挙げますと
研究1 | 研究2 | 研究3 | |
動物種 | 犬 | 犬 | 猫 |
頭数 | 120万頭 | 5万7千頭 | 50万頭 |
副反応全体 | 0.38% (260頭に1頭) | 0.63% (160頭に1頭) | 0.52% (190頭に1頭) |
アナフィラキシー | 0.0065% (1万5千頭に1頭) | 0.072% (1,400頭に1頭) | 0.0034% (2万9千頭に1頭) |
死亡 | 0.00025% (40万頭に1頭) | 0.0017% (5万9千頭に1頭) | 0.0008% (13万頭に1頭) |
と報告されています。
注意点として、上記のデータは研究ごとに条件(データの集め方、副反応の分類など)が違うため、単純比較はできません。
また、数値はおおよそで出していますので、詳細が知りたい場合はリンクから出典を確認してください。
これらの発生率を高いと思うか、低いと思うかは人それぞれですが、あなたはどうでしょうか?
ワクチンは心臓の負担になるのか?
ここまでは、心臓病と関係なく、ワクチンの一般的な副反応の話をしてきました。
それではいよいよ
- ワクチンは犬や猫の心臓の負担となるのか?
に話を移しますが、結論から言うと、あまり気にしなくて良いかと思います。
残念ながらデータが少なく、不明な点も多いですが、犬猫のワクチンが心臓に害を与えるという確たる根拠はなく、むしろ大きな問題ではなさそうという報告の方が目立ちます。
たとえば、犬や猫のワクチン副反応を調べた研究での「心停止」「心血管ショック」の発生率は
となっています。
補足説明すると、この「心停止」「心血管ショック」も、おそらくアナフィラキシー的な反応の結果ですので、「ワクチンによって犬の心臓弁や猫の心臓の筋肉がダメージを受ける」という意味ではありません。
加えて、獣医師として、ワクチンを接種した心臓病の犬や猫は山ほど見てきていますが、ワクチン後に特別多く問題が起こっている印象はありません。
まとめると、個人的には、犬と猫のワクチン接種による心臓への害はそれほど恐れる必要はないかと思います。
ウチの子はワクチンを打つべきか?
いろいろ話してきましたが、多くの飼い主さんにとっては
「結局のところ、ウチの子はワクチンを打つべきか?」
という点が大事になるでしょう。
ここに対する僕の回答は、「健康な動物と同じように判断」になります。
つまり、心臓病の有無で打つ打たないと決めるのではなくて
- 健康な犬猫なら打つ状況なら、心臓病でも打つ
- 健康な犬猫でも打たない状況なら、もちろんやめておく
という感じでしょうか。
そう伝えると、「じゃあ、その打つ or 打たない状況って?」と思うかもしれませんが、ワクチンを打つかどうかは、動物の状態、ワクチンの種類、生活環境・スタイル、家族の価値観など、多くの要因からの総合判断になります。
これらを飼い主さん一人で考えるのは大変ですから、こういうときこそかかりつけの先生を頼って、よく相談して決められることをおすすめします。
より良いワクチン接種のために、飼い主ができること
心臓病対策というより一般的な話になりますが、ワクチンを打つ場合、よりよい接種のために飼い主さんができる対策がいくつかあります。
めぼしいものを挙げると
- 体調のチェック
- 午前中に接種する
- 和やかな雰囲気を作る
となりますので、順番に説明します。
体調のチェック
ワクチンを接種する前に、愛犬・愛猫が体調を崩していないか確認しましょう。
具体的には、飼い主の目から見て、いつもと大きく違わないかをチェックします。
「もっと具体的な症状を教えてほしい」という人もいるかもしれませんが、むしろ特定の症状だけに集中してしまう方が見逃しのリスクがあります。
「それでも何かを!」と言うなら、元気、食欲、排泄がいつもと違わないかを見ておき、何か違和感があったら獣医さんに相談しましょう。
午前中に接種する
可能であれば、ワクチン接種は午前中に済ませることをおすすめします。
ワクチンの副反応は、接種後3日以内に出てくるケースが大半ですが(出典)、特に注意が必要なアナフィラキシーは「即時型アレルギー」というものに分類され、その名の通り、多くは30分以内に起こります。
なので、午前中にワクチンを打っておけば、もし副反応が出ても、再び動物病院で相談・対処がしやすくなるのでおすすめです。
さらに言えば、アナフィラキシーは動物病院であれば治療ができますので、もし時間に余裕があって病院に許可も得られるなら、ワクチン接種後に院内や駐車場で30分くらい様子を見れば、より安全です。
和やかな雰囲気を作る
これは心臓病以外の子にも共通しますが、「ワクチン接種のときに動物の不安をあおらない」のは大切です。
ワクチンの副反応が気になる飼い主心理はよく理解できますが、すでに紹介したように、副反応の発生率は数百頭に1頭で、しかも大半は軽い症状です。
むしろ、動物の立場に立てば、副反応よりも
- 慣れない場所で
- 慣れない人に囲まれ
- 何かチクッとされる
の方が負担な子も多いんじゃないかと思いますが、あなたが愛犬・愛猫だったらどうでしょうか?
ただでさえ緊張しているときに、飼い主が
「だだだ大丈夫だからね、痛くないからね、全然平気だからね、怖くないから我慢してね…!」
と強張った顔で言ってきたら、リラックスしてワクチンを受けられるでしょうか?
僕が動物だったら絶対無理です(笑)。
多少緊張するのは避けられないとしても
- 飼い主さんがニコニコと和やかにしている雰囲気の中
- よく分からないうちに獣医さんに何かを打たれてハイ終了
という形の方が余計なストレスがないし、動物病院やワクチン接種に嫌な印象も持ちにくいと思います。
飼い主さんも不安なだけで、悪気がないのも分かります。
ですが、かわいい愛犬愛猫のためにも、ここは一つ演技してでも、穏やかな場を作ってもらえたらと思います。
まとめ
心臓病を持つ犬や猫のワクチン接種に関して説明してきました。
改めて内容をまとめると、
- 心臓病の犬や猫でも、ワクチンはそれほど恐れなくていい
- 打つべきかの判断は、健康な犬や猫とほぼ同じ
- 総合判断になるので、獣医さんと相談しよう
になります。
この情報が、あなたと愛犬愛猫にとってお役に立ちますように。